2011年5月21日 (土)

「心はあなたのもとに」

「心はあなたのもとに」

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心はあなたのもとに

村上 龍  文芸春秋社

―今日はめずらしくSF小説ではないみたいですね。
あー、普通のも読みますよ。今回のはちょっと重たい小説です。
―ページ数が多いってことですか。
あのね… 内容ですよ。
―ちょっとフリしてみただけですよ。
……では、さようなら。
―あ、ちょっと、それはないでしょ!

【閑話休題】
―やっぱり美少女が主人公ですか。
違います。最近とてもよく考えることですが、50代になるとね、ときめくような恋愛にはもう出会えないんだなぁ、と思っていた時に、この小説に出会いました。
―心がときめいちゃったのですか。
この小説は、30代始めの香奈子と、50代のケンジの物語です。ケンジの視点で書かれています。もしかしたら、ケンジは作者自身がモデルなのかもしれません。
―出会いのない50代にとっては、余計に入れ込んじゃった。
そうですね。最近は、ほとんどメールも使いませんし… この物語の展開もメールが頻繁に使われています。すれ違いでなかなか会うことができないので、メールが物語の展開に一役買っています。
―歳の差20歳というのはあまりないですよね。芸能人ならあり得るか…
香奈子はバツイチ。風俗業で働いています。
―うわぁ、そっち方面ですか…
ケンジは投資家で、豪華なワインを飲み、海外へ行き、とてもセレブな生活を送っています。香奈子がケンジの客として指名されるうちに、二人はいつしか恋愛関係になります。
―でもケンジは…
はい、ケンジもバツイチですが、家庭も子どももいます。しかも家庭を大切にしています。
―それでも愛人作っちゃうのですか? だから男って…
まぁ、そこを突かれても… 小説ですから。
―では三角関係のもつれとか、愛憎劇が展開される…
えー、まったくそういうことはありません。そこが現実離れと批評する方もいるようですが、これは純粋に香奈子とケンジの物語です。
―確かにあり得ないことかも。でもあり得ないことが小説として成り立ち、読者を引きつけることにもなるのですね。
そうですね。ケンジは多忙で庶民からはかけ離れた豪華な生活を送っている。高級なワインの名前も随所に出て来ますが、私にはまったくわかりません。
一方、香奈子はⅠ型糖尿病を抱えていて、決して健康体ではない。その二人が惹かれ合うのは魅力的です。
―現実生活でときめくような出会いがないのは淋しいですね。
タイトルの「心はあなたのもとに」とは、香奈子がケンジに出すメールの最後にいつも添えられた言葉です。
ケンジが仕事が忙しく、家庭もあるので、香奈子としては滅多に会うことができない。その切ない気持ちを「心はあなたのものに」とメールにのせたのでしょう。
―私には考えられませんね。妻子持ちなんて…
そこが理屈で考えているだけでは男女関係はわかりません。あり得ないことだらけかもしれませんが、いい本に出会えたと思っています。

―奥さんがいても、他の女の人を本気で好きになってしまうことなんてあるんですか。

現実、そういう人がたくさんいるでしょう。倫理に反するとはいえ、責めることはできません。

心はあなたのもとに

2011年4月30日 (土)

「隻眼の少女」

「隻眼の少女」

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麻耶雄嵩 著  文芸春秋社

隻眼の少女

昨年、何気なく書店で買って、おもしろくてあっという間に読んでしまった本です。

実はミステリーというジャンルを読んだのは、これが初めてです。

私を知っている人でしたら、「kokoronomoriさん、タイトルと表紙の写真だけで選んだでしょ」と言われそうですが、正直その通りです。ついでに、帯の「美少女探偵」という文字だけで、あっさりと売り手の戦略にハマってしまいました。

ミステリーは必ず殺人が要素のひとつになるそうですが、この物語でも容赦なく人が殺されていきます。そんなの現実離れしていておかしいじゃん… と思っていたはずだったのですが、すっかり時が過ぎるのを忘れて読みふけってしまいました。

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かなり、ほんどありえないストーリーの展開に、なぜここまでのめり込んでしまうのか…

この本はミステリー部門で昨年の注目作だったようです。ネタバレになってしまうのであらすじは書けませんが、「名探偵コナン」のように、明るく人が死んでいく… というものではありません。

やはり、人が死ぬのは悲しいことです。当たり前のことですが、正直な読後感です。

2011年4月29日 (金)

「カンタビ」

カンタビ

菅野美穂の旅フォト・エッセー

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講談社 2009年

以前から気になっていた写真集です。

菅野美穂さんも気になっていた女優さんですが、実は出演していたドラマや映画を最初から最後まできちんと観たことはありません。一番印象に残っているのは「君の手がささやいている」というドラマです。

息の長い女優さんのひとりですね。あまり恋愛の噂も聞いたことがありません。

いつの間にか30代に入っていたようですが、少女の面影を持ちつつ、女優としての積み重ねを感じさせる人です。

世界各地に旅行したフォトエッセーですが、とても気軽に見ることができます。特にクロアチアが中心になっていますが、彼女の新たな魅力を発見したような気持ちです。

以前勤務していた同僚が毎年夏にイタリア旅行に出かけ、帰国後にどっさりと旅の写真を見せてくれた想い出と重なりました。

2009年10月14日 (水)

「夜と霧」

戦後、実存分析やロゴセラピーなどで有名だった心理学者フランクルが書いて、世界中でベストセラーになったのが「夜と霧」です。

これは、第二次世界大戦中ドイツ軍に捕らえられ、強制収容所で生と死のぎりぎりの生活を送った自身の体験を表わしたものです。

この本を日本語に訳したのが、心理学者の霜山徳爾氏で、7日付の報道によればつい最近、老衰により90歳で亡くなられたそうです。心よりご冥福をお祈りします。

「夜と霧」は、一度手に取って読んでいただければ、私が言っていることが、決して大げさでも狂言でもないことがわかると思います。

この本を読むことで、それからの人生観が変わります。

どんな自己啓発書よりも、インパクトが強く、人間に対する考え方が変わります。

詳しくは、「えほんかいじゅうのうちゅう」で述べたいと思います。

2009年9月12日 (土)

「ベストキンダーガーデン」

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近年、幼児教育に対する社会の関心は、過去にないほどの高まりを示しています。

特に「小1プロブレム」とまで言われた、小学校と幼稚園・保育園の格差の問題は、日本の幼児教育の根幹を揺るがすほどの意味を持っています。

しかし、現実には子ども本位に、子どもの成長や発達を考えているのは保育園側の方である場合が多いと感じます。

だからと言って、私たち幼児教育の関係者は既存のシステムにあぐらをかくのではなく、子どもにとってさらに良いシステム創りに研鑽しなければなりません。

「ベストキンダーガーデン」には、ニューズウィーク誌で「世界一幸せな子ども」たちとして紹介されたオランダのピラミッドメソッドを始め、モンテッソーリやシュタイナーの幼稚園・保育園が紹介されています。日本では古典になってしまったフレーベルの思想を取り入れたドイツの実践も興味深いものがあります。

この本を読んで感じたことは、どの園でも子どもたちが生き生きとしていること、そして園自体がそれぞれの思想や理念を踏まえてさらに発展しているという点です。いつまでも既存のやり方、指導の仕方では子どもはついて来ません。そんなことを痛感されられる一冊です。

2008年9月21日 (日)

「あの日の指輪を待つきみへ」

「あの日の指輪を待つきみへ」という映画を観ました。

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若いときに失った愛を人は忘れることなく生き続けることができるのでしょうか。

たとえそれが、愛する人の死であっても、

たとえそれが、愛する人との別れであっても、

ひとつの愛をいつまでも守り続けることができるのでしょうか。

この映画では、50年前に一途な愛を封印した女性が主人公です。

他界した夫に、いつも冷たかった女性に対して、娘は非難をします。

生涯の愛を誓った女性は、その想いだけに生きて来ました。若い人には理解できないことかもしれません。

そして突然の電話。見つかった指輪。そこから、女性と家族、そして周囲の人々は、50年前の事実に向き合うことになります。

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戦争の悲劇、と言ってしまえばそれだけかもしれません。

たまたま戦争の時代に生きた人の運命なのかもしれません。

でも、たとえ叶うことのなかった愛でも、これだけの愛を持つことができた人は、意味のある人生を送ったと思います。

私はうらやましいかぎりです。

2007年8月11日 (土)

「イエスの生涯」

「イエスの生涯」
「イエスの生涯」

エルネスト・ルナン 著

忽那 錦吾/上村 くにこ 訳

2000年8月20日初版

人文書院 発行

著者のルナンは19世紀のフランスの学者です。この書は今から140年程前に書かれました。

とても読みやすい文章で、イエスの生い立ちからていねいに描かれていて、深い感銘を受けた一冊となりました。

フランスでは現在でも何百刷と読み継がれている名著だそうです。作者のルナンは初期キリスト教の歴史を膨大な書物に書き、本書はその第一巻になります。

この著作が日本では一般の出版社から刊行されたことは注目されることでしょう。つまり、キリスト教専門の出版社からではない、ということです。キリスト教関係の方に直接聴いてみた訳ではありませんが、信者の方にとっては、この書籍はもしかしたら無視するものなのかもしれません。

「イエスの生涯」というタイトルですが、聖書に書かれたことがすべてここに表されているわけではありません。まず、イエスが起こしたとされる奇跡の数々―湖の上を歩いたり、死者を甦らせたり、というエピソードはまったく書かれていません。また、物語の最後はイエスの処刑で終わっており、その後の「復活」は描かれていません。できるだけ生のイエスに迫ろうとしているルナンの意気込みがうかがわれます。しかし、このあたりは、信者の方にとっては許せないのかもしれません。

訳者の解説によれば、作者のルナンはイエスとキリスト教を大変愛していたそうです。

この書物は、イエスを身近に感じるものとして、私はとても素晴らしい本だと思います。数々の挿絵も感銘を受けました。読み終えていっそうキリスト教に関心を持つことができたと思います。今は続編を読み始めました。

2007年5月10日 (木)

「新編 家族の練習問題」

「新編 家族の練習問題

―木陰の物語―」


団 士郎 著

2006年5月10日 初版発行

ゴマブックス株式会社


家族のあり方が社会的な問題になっています。
政府の教育再生会議は、親の子育てについて、「母乳で育てる」「赤ちゃんと目をあわせ子守唄を歌う」「食事の時はテレビを消す」「三世代の同居」などを「親学」というテーマで提言しようとしているようです。
とても当たり前かのようなことをわざわざ政府が国民に向かって言う必要があるのかどうか、家庭に政府が介入し過ぎている、という議論が起こるのも当然でしょう。与党内からも、「再生会議は、教育放談会議になっている」と言われるくらいです。
子どもの問題は家族の問題、これは誰も否定しないでしょう。
そして、家族の問題は社会の問題なのです。社会が子育てしやすい環境でなければ、家族がうまく機能しないのは必然的とも言えます。
まず社会の各種制度の整備が必要であって、親に健全な子育ての姿勢だけを押しつけるのは、反発が起きても不思議ではないでしょう。
「新編 家族の練習問題」の中には、親としての苦悩が、自分が親になって初めてわかる、というトピックスがあり、私は息苦しいほどの共感を覚えました。
自分が自分の親にしてきたこと。自分が親として子どもにしてきたこと。どれも矛盾と後悔と悔しさが入り混じっています。
家族の中で、例えば子どもの非行、父親の単身赴任、夫婦間の亀裂、虐待など、さまざまな問題が起きた時、家族というシステムを再生するのか、それともゆるやかに解体していくのか、千差万別のものであり、万人共通の法則などありません。
それをひとつの思想で括ってしまおう、という無茶なことをするのが時の政権であり、それに対して私たちは声をあげなければなりません。
家族はひとつのものであって、固有なもの、独立した個性をもったコミュニティであることを。

2007年5月 6日 (日)

スピリチュアルの世界


「ジャンヌ・ダルク

失われた真実」



レオン・ドゥニ 著



浅岡 夢二 訳



2003年12月25日 発行



ハート出版



キリスト教の勉強をしている過程で、この本に出会いました。



15世紀、イギリスとフランスは100年に渡る戦争を行なっていました。敗色濃厚なフランスに、突如として登場したのが、わずか19歳の少女、ジャンヌ・ダルクでした。



彼女はフランス軍を率いてイギリス軍を次々と撃破します。



しかし、裏切りと策略によって彼女は捕らえられ、宗教裁判にかけられ、火刑に処せられてしまいました。



本書は1910年に初版が出版されたという、大変古いものです。



ジャンヌ・ダルクの生涯を振り返りながら、彼女に対する誤解を解き、敬愛に満ちた内容になっています。



著者が聴き取ったという、霊界からのジャンヌ・ダルクのメッセージが随所に書かれています。信じるかどこかはともかくとして、とても興味深い内容です。



いわゆる「スピリチュアル」ものの一冊ですが、自己啓発書ではないので、西洋史に興味があれば、オススメかもしれません。

2007年4月29日 (日)

「車のいろは空のいろ」


「車のいろは空のいろ」



あまん きみこ 作



北田 卓史 絵



ポプラ社 発行



1977年5月 初版発行



新聞報道によれば、児童文学作家の、あまんきみこさんが春の叙勲に選ばれたそうです。



私にとって、あまんきみこさんの作品「車のいろは空のいろ」は、まだ保育士を目指す前の高校生の時に出会いました。



最初は、シンガーソングライターの谷山浩子さんが、アルバムの中で、「車のいろは空のいろ」をテーマにした歌と語りを聴いたのがきっかけでした。



当時、小さい子どものことなど、まったく関心がなかった私が初めて買った児童文学作品でした。



空いろのタクシーを運転する松井さんが、さまざまな不思議な体験をして行きます。



小学校の教科書にも採用されたので、読まれた記憶がある方もいらっしゃると思います。



私は、戦争の空襲をテーマにした「すずかけ通り三丁目」、病気の母親のお見舞いに行く山猫を乗せたお話「山ねこ、おことわり」などが印象に残ります。



「車のいろは空のいろ」は、私の児童文学を読む上での原点です。

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